出来立ての吟醸酒を呑んだ。
勿論初めてだが、旨い
雫搾りで、今搾っている吟醸酒だ
「袋雫(ふくろしず)」くとか「つるし」絞りと呼んで自然にもろにの重さで搾る
搾っている音は、水禽靴にも似た音でピョン~ピイ~と表現が難しいが何ともいい響きと、透き通ったお酒がぽとぽとと樽に落ちてくる。
酒通にはこんなお酒はたまらないのかも・・
でも、美味しい酒だ。
朝日新聞より引用 2007/1/13掲載「酒(しゅ)にまじわれば」 なぎら健壱
幻の酒
10年ちょいと前、吟醸酒ブームの頃である。酒好きの伸間が集まって、利き酒の会をやろうということになった。銘柄を当てるのではなく、その年の品評会で上位に選ばれた、10種類の酒の1位から10位までの酒を当てようという趣向である。
ただその中に1種類だけ、世間で幻の銘酒と誉れの高い、あの酒を10位の酒と入れ替えてある。しかし主催者は、その酒が入っていることをみんなに伝えてはいない。
当然この酒の名前は、みなさんも知っているはずである。だってあの、幻の銘酒ですもん。わけ知りを気取った酒飲みは居酒屋でこの酒を見かけると、一様に「あの酒うまは美味いぞ」と語る。また、店側も自慢げに酒を見せびらかせ、高い値段を取る。
やがて、利き酒が始まった。皆は眉間にシワを寄せ、酒を利き、猪口(ちょこ)の中で転がし、また口の中で転がしたりしている。その結果を、真剣に手元のメモ用紙に書きつける。
時間が来た。それぞれが、結果を発表する。なんと、1位から5位までは、多少のバラつきがあるものの、ほとんどの人の選考が同じなのである。
「いや~みなさん、さすがですな~」などと、お互いを褒めたたえる。しかし実のところは、相手ではなく、自分を褒めているのに過ぎない。明らかに自已満足にひたっているのである。
その中で、みんながみんな「ひとつだけ、ひどいのがありましたねえ」と、口をそろえて語る酒があった。もうお分かりですね。そうです、あの幻の銘酒がそれです。
それ以来あたしは、あの酒を「美味い」と称する人物や居酒屋を、酒が分からないヤツの基準にしている。えっ、銘柄を教えろですって? だから、あの幻の銘酒ですよ。(フォークシンガー)