もてぎの棚田から:玄米引き渡し 「来年も田植えがしたい」 /栃木
◇紅葉バックにオーナーの声響く
「私、来年もここで田植えがしたい」
茂木町入郷の棚田で、宇都宮市西川田、会社員、高橋明宏さん(46)の二女友世さん(14)が弾んだ声を上げた。6日にあった最後の行事「玄米引渡し」での一こま。オーナー4年目の高橋さんは、入郷棚田保全協議会(大町弘志会長)のメンバーに「来年もよろしく」と申し込んだ。
モミジが赤く色づいた里山のふもとに広がる棚田。今年も豊作で、一組約45キロの玄米が紙袋で配られた。オーナーたちは車に玄米を積み込んだ後、協議会員の栽培するほだ場で、町特産のシイタケ摘みを楽しんだ。解散後も名残惜しそうに携帯電話のカメラで棚田を撮影したり、協議会メンバーと話し込んだりした。
「手がかかる棚田や不便な農村に、本当に来てくれるのか」。大町会長は、99年に日本棚田百選に選ばれ、町にオーナー制度を紹介された時の不安を思い出す。しかし、4年目を迎え、リピーターや若い人の参加が増えている。「何度も通ってくれるオーナーのお陰で、棚田が守る生態系や農村の景観の大切さを改めて教えられた」と感謝している。
高橋さんは「稲作だけでなく農作物の輸入自由化や過疎など、農村が抱える問題も考えるようになった」と言う。友世さんも「お米たった一粒でも、大変な苦労があると知ったの」と話す。
継続オーナーが多いことは、メンバー以外でも指導ができるようになるため、高齢化する協議会メンバーの負担を減らすことにもつながっている。協議会の「無理をしてつぶれてしまうよりも、対等な立場で長く続けたい」という思いと、オーナーの「できることはやる」という気持ちのバランスが、うまくとれている。
協議会の塩沢康治さん(39)は、「オーナー制度ができるまで、他の地区との交流なんて、ほとんどなかったんですよ。ここにいながら、たくさんの人に会えるのが何よりうれしい」と話す。
協議会のメンバーは「来年もまた会いましょう」と、それぞれの帰路につくオーナーたちをいつまでも見送っていた。=おわり(この企画は田後真里が担当しました)
毎日新聞 2005年11月8日